

サブプライム問題で困っている各国が、学者たちの声を聞いて自国通貨Eに走ったら、それこそ1930年代の通貨切り下げ競争になってしまう。
そのような事態を避けるためにも、欧米各国は金融為替政策に大きく依存するのではなく、サブプライム問題から来るバランスシート不況は財政出動で対応すべきなのである。
その意味では、「今回の危機は全世界が財政出動で対応しなければいけない」というIMFのストロスカーン専務理事の発言は極めて適切だと言えるのである。
アメリカはドル誘導に失敗、巨額の貿易赤字だけが残ったアメリカから世界経済に焦点を移し、為替の問題を中心に論じてみたい。
今年20O8年と20O9年の2年間は、世界経済にとって大変な試練の年になると思われる。
アメリカの通貨であるドルは下がっているし、バーナンキFRB議長もドルを指向しているが、その一方で世界のドルに対する不信、警戒感は過去最高と言ってよいほど高まっているからだ。
アメリカが抱える巨額の貿易赤字(20O6年には817O億ドルに達した)を見れば、確かにドルは下げなければいけない。
20O6年の4月からはIMFもはっきりとドルの必要性を言い出し、欧米ではその必要性、必然性はすでに共通認識となっている。
このまま貿易赤字を放置しておいて、全世界が「アメリカは何も製造せずにドル紙幣だけ刷って、世界中から買い物をしているだけではないか」と考えるようになれば、ドルは暴落してしまう危険性があるからだ。
ドルの暴落は全世界を大混乱に陥れるだろう。
そういう意味でも我々は、ドルを下げながらも、ドルが果たしてきた基軸通貨としての役割が一気に崩壊しないようにしなければいけない。
具体的には、世界貿易と国際金融が大混乱に陥らないようなかたちでドルを下げて行かなければならないということである。
今は以前とは違ってユーロという通貨がある。
1999年にユーロが誕生する以前は、ドル以外に基軸になる通貨がなかったから、世界中の人たちは仕方なくドルを持たなければならなかった。
またユーロが登場した当初は、誰がユーロの操縦梓を握っているのか全然わからない状況だったので、世界中が「ヘンな通貨が出てきたが、やはりドル以外にない」と見ていた。
ここ数年で、ユーロ圏の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)による情報発信が、記者会見や質疑応答を含め非常にしっかりしたかたちで出てくるようになった。
このように誰がどのように操縦梓を握っているかも見えてきたし、ヨーロッパ全体の貿易収支はアメリカのような大幅な赤字を抱えることなく、経済もそれなりに成長していることから、これまでドルにあった資金がどんどんユーロに移るようになった。
このことが、ユーロがドルに対してずっと上昇してきた背景にある。
言い換えれば、今ドルの前にはユーロというたいへん有力なライバルが登場してきたということである。
アメリカの巨大な貿易赤字は、同国の政策担当者にとっても大問題であったが、アメリカの大統領は、一期日は貿易収支の問題には手をつけず、2期目になって貿易赤字の改善に取りかかるという習性がある。
一期目に、下手に貿易収支の問題に手を触れ、選挙前にドルが暴落するようなことになったら再選が覚束なくなるからである。
2期目に入れば、憲法上の規定により3選はないわけだから、早いうちにドルにして貿易収支の改善を図ろうとする。
それがこれまでのパターンであった。
ブッシュ政権も、彼が再選を果たした約2週間後の20O4年11月19日に、まずグリーンスパンFRB議長がフランクフルトでドルのトークダウン(ドルの為替レートが下がるように誘導する発言)を始めた。
それにホワイトハウスや財務省のトークダウンが加わり、ドルは急速に下げていった。
もちろん、このドル誘導は、一期目に大幅に拡大した貿易収支の赤字をなんとか改善したいというブッシュ政権2期日の意図の表れだった。
翌20O5年の2月、石油価格が急に上がり出した。
しかもこの時は単に石油価格が上がっただけでなく、石油価格の最期先(いちばん先の時期)の先物まで同時に上がってしまったのである。
それ以前は、たとえ石油価格が短期的に上がっても、先物市場を見れば「将来は下がる」という価格形成になっていた。
したがって、インフレを心配するのが仕事のグリーンスパンも20O5年2月までは「石油価格の上昇は短期的な現象だ」と明言していた。
20O5年2月以降の石油価格は、先物の指標が将来の値上がりを示すようになったのである。
そこで慌てたプッシュ政権はドルのトークダウンを止めたのである。
その結果、ドルは再び上がっていき、結果的にアメリカの貿易赤字は拡大を続けることになった。
この時アメリカが怖じ気づいたのは、石油価格が上昇している時にドルが進みすぎれば、そこから大きなインフレ圧力が出てきて、アメリカ経済が保たなくなる危険性があるからである。
石油価格が上がっている時にアメリカ当局がドルにすると、そのドルがさらに石油価格を上げるという悪循環に陥る危険性があった。
一回目のドル誘導の顛末である。
前回の失敗があり、石油価格も高止まりしているなかで、い出すわけにはいかなかった。
そこでどうしたかと言うと、動員してドル誘導を行ったのである。
まずIMFが「グローバル・インパランサス問題」(世界的な貿易収支の不均衡)の解消を強く打ち出した。
グローバル・インパランサスというのは簡単に言えば、アメリカの巨額な貿易赤字という意味である。
これを是正するためにIMFは、各国の内需の「リ・バランシング」、つまり貿易黒字国はもっと内需を増やし、貿易赤字国は内需をもっと減らすことに加え、ドルの大幅な下げが必要だと、主張したのである。
そのなかでもIMFは、アジア通貨および産油国の通貨はドルに対して大幅に上昇すべきだと言及した。
通常であれば、IMFは「為替レートをどうこうせよ」とは決して言わない。
だから私も、そのIMFの文書を見た時には本当に驚いたものである。
国際機関が発表する文書はたいていの場合、妥協の産物になるからつまらない文章が多い。
それが、ここまで言っていいのかと思うほど強い表現で「ドル」の必要性に論及していたのである。
これと併せて、4月末から5月初めにかけて開催されたG7も、「グローバル・インパランサス」の解消を打ち出した。
G7の声明文は通常は一枚だけであるが、この時は2枚になっていて、2枚目はすべて貿易不均衡についての懸念を表明していた。
ちょうど同じ時期にOECこうして、20O6年の4月末から5月初めにかけてIMF、OECD、G7は足並みを揃えて「グローバル・インパランサス」の問題をぶちあげたのである。
アメリカが自らドルのトークダウンをやれば、それはアメリカの身勝手で一方的な行動と映り、ドルは急落しかねない。
同じことを国際機関であるIMFやG7が言えば、傍目にも中立的に見え、「ドルが適正だ」というイメージで捉えられる。
そうすれば、ドル保有国の政治的な反発は抑えられ、彼らがドルの投げ売りに走るリスクは減少する・・・。
アメリカはそう考えたに違いない。
はもちろん、日本もインドも、世界的に株価が急落した。
G7の官僚たちはそれを見て再び及び腰になり、またドル政策を引っ込めてしまった。
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